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スキャンダルの定義 PAGE8

last update Dernière mise à jour: 2025-11-01 08:30:09

 クルマに乗る時、わたしはあえて後部座席ではなく助手席に乗せてもらった。彼がこの距離感を拒んだら大人しく後部座席に乗るつもりでいたけれど、彼から拒まれなかったのでそれが実現したのだ。

「野島さんって、けっこういいクルマに乗ってるのね」

 彼の愛車は国産メーカーのハイブリットカーだった。いくらくらいかかったのか訊いてみたいけれど、下世話な質問になってしまうし、彼が気にしてしまうだろうからやめておこう。

「そうですかね? ありがとうございます。ですが、社長のお宅の高級セダンに比べたら月とスッポンですよ。ちなみにこちらがスッポンです」

「スッポン……」

 彼のたとえがシュールすぎて、わたしは思わず笑ってしまった。この人、こんな面白いことも言えるんだ……。

「……でも、ちゃんと自分で買ったんでしょ? それはそれで立派だと思うよ。金額は関係なく」

「そう……ですか? 畏れ入ります」

 わたしがそう言うと、彼は嬉しそうにはにかんだ。クールな人だと思っていたけれど、たまに見せてくれる笑顔が可愛い(彼の方が二歳上なのだけれど)。

「――では会食、楽しんで来て下さい。社にお戻りの際、また連絡を下さいね」

 お店の前でわたしを降ろすと、彼自身もわざわざクルマを降りて見送ってくれた。

「うん、ちゃんと連絡するわ。じゃあまた後でね。送ってくれてありがとう」

「はい」

 彼は再びクルマに乗り込むと、つい先ほど見えたコインパーキングへと引き返した。そこに駐車して、近くの飲食店でお昼を食べてくるんだろう。

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